ブログ: 相続税務相続税
自分の知らない自分名義の銀行口座が出てきた!相続人が困る借名預金とは何か
2019.12.29
親の見送りが終わって相続を始めるタイミングになったとき、自分の知らない自分名義の預金通帳が出てくることがあります。
「借名預金」、もしくは「名義預金」と呼ばれるものですが、相続財産としてみなされるのでしょうか?
こういったときの対処をどうすればよいのかをまとめましたので、参考にしてください。
借名預金
借名預金(名義預金とも呼ばれます)とはそもそもいったいどんなものなのかというと、口座の名義人と、実際の預金者が違う預金のことをいいます。
名義人は口座を管理せず実際の預金者が口座に入出金したり、手続きしたり、通帳を管理したりします。
多くの場合は、親が子の名義で学業資金を貯めていたり、結婚したときのため、子どもが事業を起こした時のためなど、
様々な形の将来に向けてお金を貯めていることがほとんどだと思います。もしくは祖父母が孫の為にお金を残す場合などでしょうか。
子ども本人に相続財産が行くようにと、子ども名義の銀行口座を作っておき、他の人に口座の存在を知らせないことで相続トラブルになるのを避ける、という意図があるかと思います。
それが、むしろトラブルの大きな火種となってしまいますので、基本的に行わないほうがいいものです。
今回は借名預金をするとどうなるか、借名預金が死後に見つかるとどんなトラブルが起こるのか分かりやすくまとめましたのでぜひ確認してください。
借名預金はそもそもOKなの?
借名預金は本来はNGです。それどころか、犯罪行為とみなされる場合があります。
本人の名義でなく、他人の名義で取引をするため、なりすまし行為とみなされるのです。これはマネーロンダリングや、脱税の温床となるため、本来は法律で禁止されている行為なのです。
親権者がつくる子どもの名義の銀行口座
ただし、親族間の銀行口座の場合、銀行などの金融機関は親が子ども名義の口座を作ることは認めていますし、犯罪性の薄いものであれば見逃してくれることもあります。
ただし、これはあくまでも見逃してくれているだけであって、もちろん犯罪性がありそうだと見受けられたり、不自然なお金の流れになっている場合は銀行などの金融機関でも、犯罪防止のために口座を作れないこともあります。
子ども名義でお金を遺す方法
上記のとおり、借名預金というのは法律的には完全にアウト、金融機関的には見逃しているだけということで、あくまでもグレーゾーンなものなのだと知っておくことが必要です。
学業資金や、結婚資金などを子どもに遺したい場合は、学資保険などの金融商品を利用するのが無難でしょう。
ただし、銀行口座に預金することで子ども本人だけにお金を遺したい場合もあるかと思います。そういう時は、相続ではなく贈与で子どもに財産を遺すことを考えましょう。
現行の制度では、年間110万円までは贈与税がかからないかたちで贈与ができます。
これを暦年贈与と言いますが、1月1日~12月31日までの1年間に取得した贈与財産に対して贈与税を課す制度を活用し、年間110万円の基礎控除を受けることで贈与税がかからなくなります。
このとき、名義人本人が口座の管理をして出金がいつでもできる状況にあることが必須となりますので、親権者が通帳・キャッシュカード・届印を管理せずに、子どもに管理をさせるようにしましょう。
もしくは、場所を必ず把握させるなどの工夫をしましょう。
借名預金はどう判定される
とはいえ、子どもの立場になってみると、親が自分のために自分の名義の口座で貯金してくれていて、それが親の死後に発見されるということは実際に起こりうるわけです。
昔の金融機関の審査は現在よりかなり緩く、親族の名義での銀行口座開設が割と簡単に認められていたので、多くの方が子どもの口座で貯金をしていたということが考えられるためです。
それが借名預金なのかどうか、どのように判定されるのでしょうか?
ここでは基準の一例を取り上げてみたいと思います。
口座名義人が違う
その口座にお金を入れていた方が、口座の名義人でない場合は、借名預金と判定される可能性があります。
名義人が子で、預金者が親権者の場合でも見逃されず、借名預金と判定される可能性がありますから注意が必要です。
口座名義人が口座の存在を知らない
口座の名義人が口座の存在を知っていなければ、当然預金も管理をしていたとは立証しがたいため、借名預金と判定される場合があります。
口座名義人が口座を管理していない
名義人が口座を管理せず、預金者が口座を管理している場合、特に通帳やキャッシュカード、届印を預金者が管理している場合は、実質的に預金者の口座とみなされるため借名預金と判定されることが多いです。
借名預金対策
借名預金と判定されるのを避けるためには上記の状況を回避しないといけません。
そのために、口座名義人本人が口座を管理、通帳・キャッシュカード・印鑑を管理していつでも引き出せる状態にしておくことと、親が資金を口座に入れる場合でも本人が贈与を受けているという認識を持つことが大事です。
口座を作る際、もしくは口座を作ってから子どもが成長し、お金を管理できる年齢になってからしっかりと話し合いをすることが大切でしょう。
借名預金のデメリット
ここまでさんざん注意してきましたが、借名預金とみなされることのデメリットはどういうものなのでしょうか?
正しく知ることで、トラブルの対策をしましょう。
相続税対策が無効になる
生前に財産を贈与することで相続税の対策をすることもあるのですが、暦年贈与もその一つの方法です。
借名預金とみなされると、受け取る本人が「贈与された」という認識がない財産になりますので、所在としては名義人のものではなく、預金者の財産ということになります。
そうすると、暦年贈与で年間110万円ずつ、20年貯めていたら2,200万円になります。
しかし、名義人のお金とはみなされないために2,200万円分の相続財産とみなされるわけです。
改めて2,200万円分の相続を開始するので相続財産に加算する必要がでてきます。
相続トラブルに発展する可能性
名義人は棚からぼた餅のように、自分のお金が増えたと思ってしまうかと思いますが、上記の通り借名預金と判定された場合は故人の財産となりますので、いくら名義人が自分のお金だと主張しても他の相続人の方々は納得しません。
相続人間で解決しない場合は、「遺産確認の訴え」をして、どちらに転ぶか裁判所に決めてもらうことになりますが、多大な時間と労力を使うことになりますので、専門家に相談することをお勧めします。
ただし、どちらに転んでも借名預金とみなされている時点で相続税はかかりますので注意してください。
借名預金が見つかった場合
お話ししている通り借名預金は法律で禁止されているのですが、これがお見送りの後、いざ遺産分割をしようと思ったときに出てきたら、名義人の方は嬉しいですが、他の相続人の方々は複雑な心境になりますよね。
ですから、取り扱いが難しいのですが全てが名義人のものになるとは言い難いのが現実です。その取扱いの方法を見ていきましょう。
名義人が借名預金の存在を知っていた場合
親と子が良く話し合って、贈与として認識していた場合、贈与契約がされていたとみなすことができる場合は借名預金とは判定されません。
贈与として認識していなかった場合は、解約手続きをすることで一括で贈与を受けたということになりますので、110万円を超えた分の金額は贈与税がかかってきます。
これらの場合は、生前贈与を受けていたということで、「特別受益」に該当します。
特別受益とは、故人から生前に金銭的支援を受けていた人がいる場合、他の相続人に不公平にならないように生前に受けていた金額を算定し、遺産の総額とすることで法律で定められた相続人が最低限相続することの出来る相続財産の割合=「遺留分」という金額を多くすることになります。
名義人が借名預金の存在を知らなかった場合
借名預金かどうかの確認をしないといけません。遺産確認の訴えを裁判所に提出し、裁判所の判断に従うことになります。
もし借名預金だと判定された場合は相続財産となり、その口座に入っている金額が相続財産の総額にプラスされることになり、各相続人の間で協議をして分割することになります。
その場合の相続税はもちろんかかります。どちらの場合も相続財産の再計算が必要になりますし、相続税の計算や手続きの煩雑さなどから多大な負担がかかることになりますので、信頼できる専門家に相談することをオススメします。
最後に
借名預金は、良かれと思って子どもの名義の口座に遺すものですが、その良心が仇となって、相続トラブルに発展する場合があります。
子どもが苦労をしないように、日ごろから金銭については話しておくべきでしょう。
また、子どもの側からしたら、きちんと話してくれていれば贈与税も相続税もかからなかった可能性のあるものが、相談がなかったことによってトラブルのもとになってしまって大変な思いをすることになります。
対応方法としては親と生前から話しておくことが一番ですので、しっかり時間を取ってお金の話をしましょう。
もちろん専門家に相談しておくことも有効です。専門家なら必要なことをしっかり引き出すことができますので、信頼できる専門家を見つけておきましょう。